有珠山旅行記 / ネオ・ヴェネツィアとの類縁性について

 

長めです。基本は時系列順に徒然と。

 

 一日目

 

夏休み終盤も終盤、旅の最後に有珠山高校の舞台探訪をしてきました。

 

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札幌からの特急に乗り、約2時間で伊達紋別駅に到着。改札を抜けて駅舎の外に出ると大きな「伊達」の文字が地面に。なかなかのアピール力である。

 

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伊達

 

小さな駅舎の出口にある伊達市の観光スポット案内パンフレットを何種類か頂戴する。輪行袋に入れて一緒に持ってきていたチャリンコを組み立て直しながらプランを練る。時刻は午前11時の少し前。ユキちゃんの中学校の方はどうやらかなりの僻地っぽいので、適当に伊達市街をぶらぶらして昼食を済ませてから壮瞥町へと向かおう。何か面白いものがあるかも知れない…

 

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さらば伊達紋別駅(翌日また来ることになる)

 

やはり何となく小学校とか中学校は気になるので遠めからパシャリ。これらの学校に桧森誓子ちゃんや本内成香ちゃんが昔通っていたかも知れないのだ…! ちなみに、桧森誓子ちゃんと本内成香ちゃんは伊達市(海岸側)出身、真屋由暉子ちゃんは壮瞥町出身、獅子原爽ちゃんと岩館揺杏ちゃんは洞爺湖町出身かなーと勝手に思っています。

 

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小学校

 

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中学校

 

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ひたすら真っ直ぐな道路と白線

 

 

途中で「だて歴史の杜」という、やたらデカイ立派な資料館というか博物館群? を見かける。仙台の伊達氏の分家筋の武士が開いた、つまり元々は武士の町らしい。桧森誓子ちゃんのあの負けず嫌いっぷりはこの辺にルーツがあるのかも知れませんね。

 

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負けず嫌い

 

今にして思えば本内成香ちゃんのあの鬼太郎スタイルも伊達政宗の独眼竜を連想させます。

 

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独眼竜成香(右目を隠す点も同じ)

 

市立図書館も是非覗いてみたかったのだが残念ながら休館日。この近くにパトカーが停まっており、何故かドキドキしてしまう(舞台探訪あるある。ありますよね?)。

 

時間も良い具合に潰れたので、街中にある攻撃力高めのラーメン屋で昼食

 

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突撃ラーメン

 

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クソうまいし味噌ラーメンに白菜が合うんだこれが

 

北海道に来てから通算で何杯目かもはや不明の味噌ラーメンを平らげ、いよいよ最初の舞台探訪目的地のユキちゃんの中学校へと出発。400円で購入した自転車用のナビゲーションアプリは、ゆるやかな上り坂の約20kmの道のりを示してくれる。その三日前に膝をしこたま痛めていたので、意識的には太腿から下はほったらかしで踏むときには力を込めず、もっぱら足をリズミカルに引き上げることだけに集中する。腹筋がつりそう…

 

※ここからの実際に作品に使用されたスポット探訪には、以下リンクのカツゲンさんのブログ記事群とKazukiさんのGoogle Mapsを大いに参考にさせていただきました。ありがとうございます。

 

有珠山高校へ行ってきた(2)中学編

 

「咲-saki-」 舞台探訪マップ -有珠山高校編-

 

 

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異様に長い陸橋(実際に日本でも有数の長さらしい)

 

この辺とか車の通る音以外はほぼ無音で、爆笑しながらチャリ漕いでました。爆笑しても人が居ないので問題なし。この後も笑うしかない様なすばらな景色が続く。

 

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この形の屋根をした小屋が沢山ある

 

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ユキちゃん中学校すぐ近くの公衆トイレの水洗ボタン

 

 

超スローペースながらも膝はそれほど痛まず、なんとか無事に到着。

 

 

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久保内小学校(真屋由暉子所属中学校モデルと思われる)

 

 

着いた、本当に来てしまった…。遠路はるばる舞台探訪でやってきた時のこの「俺は何をやっているんだ」感が堪らない。隣の中学校、すぐ近くにある保育所も一応パシャリ。しばし感慨に耽りながら水分と栄養を摂取。

 

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久保内小学校すぐ近くの橋から見下ろした長流川

 

ここからは有珠山高校のモデルの洞爺湖サミット記念館を終点に他の舞台をさらっていく感じにルートを決める。まずは山を少し上った所にある「壮瞥公園」を目指す。途中で久保内小学校と良く似たメルヘンな建築の小学校を発見。

 

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壮瞥小学校

 

隣にこれまた久保内中と同じく無機質で愛想の無い建築の壮瞥中学校を発見。まあ小中学校の建築コンセプトはこの壮瞥町に限らず日本の他のところでも似たようなものかなー。そういえばウチの地元もこんな感じだったような気がする。

 

行きで通った道を戻って右に折れ洞爺湖方面に向かうも坂がきついので膝を労り念のためチャリを降りて押して歩く。

 

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川底が特徴的

 

そのあとも山を登る激坂はひたすらチャリを押して歩く。キッツぃわ…

 

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昭和新山有珠山を望む

 

有珠山のてっぺんの方に雲がかかっており雑誌掲載の構図は再現出来ず。仕方ないね。ちなみにこれがその山頂広場からどっちを向いた景色なのかがよく分からず、たまたまそこに車でシャボン玉遊びに来ていた女性(しょっちゅう来るらしい)に聞いてやっと分かりました。その節はお世話になりました。最終的には山頂から少し降りた屋根付きの休憩所? の辺から撮ったんだけど、ホントにリッツはこういう風景をよくぞ見つけるものだな…とここに至り驚愕していた。島根の玉造温泉のあのシノハユファーストカットも公園頂上に向かう道の途中の足元がかなり悪いところからだし、なんというか普通では通り過ぎる、見落としがちなところにあるエモーショナルな風景を探し出す感度が図抜けている。

 

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有珠山写真撮影スポットは多分この辺

 

山を降り、今度はあの避難車を5人で押して歩いていたスポットに向けてまた自転車にまたがる。ついに洞爺湖畔沿いの道に入る。

 

 

【寄り道妄想:まるでネオ・ヴェネツィア

 

「天国みたいなところだ」

 

避難車絶景スポットへ向かい洞爺湖畔沿いをのんびりとチャリを走らせながらそう思った。別に俺が重度の咲-Saki-中毒患者で咲-Saki-の舞台に行けば自動的にヘヴン状態になるとかいう訳ではない(そういうことも多々あるが)。洞爺湖の諸々の雰囲気が現実離れしていたというか、どうにもこの世のものとは感じられなかった。極端に言ってしまえば、死後の世界のような。

 

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海ではないので波の音も無く、湖面は実に穏やかで静か。人の声も聞こえない。せいぜい車の音がするくらいで、車が通らない時は耳が痛くなる気がするような、そんなレベル。

 

次に、湖に浮かぶ島の形が、子供が砂場で形作るような綺麗すぎる山型をしている。火山由来の山ってこういうものなんですかね。

 

また、家の造形がメルヘン&カラフル。理由は良く分からない。雪深い地域だから派手な色彩の方が色々と都合がいいのか?

 

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有珠山高校の面子って咲-Saki-ワールドに出てくる学校には珍しく、誰も複雑な設定や重い過去を匂わせてないんですよね(勿論これから出て来るかもしれないけど)。ひたすら能天気に全国大会を楽しんでいる。

 

そうしたあれやこれやから、自然と天野こずえ氏の日常系漫画の傑作『ARIA』を連想しました。

 

 

 

 

ARIA(12) (BLADE COMICS)

ARIA(12) (BLADE COMICS)

 

 

 

 

 

テラフォーミングされた火星の都市「ネオ・ヴェネツィア」では、地球はイタリアの水の都・ヴェネツィアをモデルに長閑でのんびりとした、《非合理的な》、しかし豊かな生活が営まれています。そこでは地球は「マンホーム」と呼ばれ、合理化が極限まで推し進められ主人公の水無灯里曰くどこか《物足りない》ものになっているとのこと。作品内ではマンホームの話は殆ど語られず、あくまでもネオ・ヴェネツィアでの人と人の交流、少し不思議な出来事、美しい景色が描かれます。悪く言えば甘ったるい作品ですが、ネオ・ヴェネツィアという理想郷に至るためにマンホームというディストピアを経由しなければならなかったという背景が最初に語られるお陰で、ギリギリのリアリティが担保されていたように思います(この作品解釈のガイドラインは渡辺さんの過去ブログの評論で読んだんだっけ、記憶が曖昧…)。極端に言えばこのARIAは「今の世界が終わってしまったあとのディストピア作品」でもあり、灯里たちのあまりの無辜さ純朴さは天国の住人、死者を連想させます。

 

こうしたアレコレが有珠山高校の舞台、及び登場人物達にオーバーラップする。別に有珠山高校の面々が幽霊だとは言いませんが。

 

また、「後ろめたさ」という点でも共通点があるかも。時系列が前後するが、この翌日にスタート地点である伊達紋別駅まで戻り駅前の飯屋で雨宿りがてら昼食を食べている時に、長万部に住んでいるという70過ぎと思われる婦人が「北海道の人間は基本的には内地には上手く順応することが出来なかった人たちだから、どこかそういう後ろめたさのようなものはあると思うんですよね」と話してくれた。伊達市民の気質を聞いたら北海道民全体の話に飛んでたのは俺が道外の人間だったからだろう。開拓時代のことを言っているのならそんな大昔のことを持ち出されてもナーと思うし、この前に札幌に3泊してその大都会ぶりや風通しの良さを目の当たりにし「むしろ東京よりも交通の便はいいんじゃないか?」と感じた身としてはにわかには信じがたかったが、もしも有珠山高校の面々にそうした背景を読み込むならば少し納得出来る部分も出てくるというか。そもそも土地の持つコンプレックスなど10代の若者には普通はピンと来ないはずだが、理解するしないに関わらずそうしたしがらみはどうしても自然に背負ってしまう、という話は良く分かる。

 

全部妄想ですが、有珠山高校のあの底抜けの明るさを支えるものってなんだろうな? と考える時にこんな寄り道をしてみるのも悪くないのでは、と思います。

【 /妄想】

 

閑話休題。そうした天国のような、あるいはネオ・ヴェネツィアのような風景のなかチャリンコをのんべんだらりと漕ぎ続け、たまに停車してはナビを確認して避難車スポットへと近づいていく。このコマで見下ろしている坂道の下から上まで登ってくるのはちょっと嫌だったというか若干勿体ない気がしたので、少し手前の早い段階で坂道を登り、この有珠山高校の面々が避難車を押して通ったであろう道を行くことに決める。またしても坂キッツイ…。坂を登り切った所に小さな牧場があり馬が一頭出ており「何だお前」みたいな目で見られました。サーセン

 

あのコマから考えるに有珠山の5人は絶対にこの道を通っている、という道を通ったのですがそこにはまじキツイ傾斜の坂があり、何故こんなところを?と思うなど。もっと下の湖畔沿いの道なら平坦でずっと楽だろうに…。

 

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キツイ坂も超えてまたチャリにまたがる、遠くの団地が少しずつ近づき、構図があのコマに似てくる、うおお来た来た来た来た!

 

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来た

 

有珠山の麓の坂の中でも恐らく指折りの絶景でしょう、素晴らしいところでした。左側は普通に団地なのでずっと子供の声が聞こえていました。これで晴れてさえいれば言うことなしだったんだけど、致し方なし。しばし休憩しながらそれぞれのメンバーが立っていたところに自分も立ってみたりその地面を写真に収めてみたり。

 

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CHIKACHAN STOOD HERE

 

ひとしきり風景を味わった後はサミット資料館へと出発。この写真のワンブロック進んだ所から坂道を降りて湖畔沿いの道に戻り、有珠山高校のモデルのサミット記念館へ。ここまで来ればもうすぐそこだ。途中で面白彫刻を見つけてチャリを止めて眺めたりとダラダラ進む。

 

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到着

 

当日はバスが停車しており建物が結構隠れてしまっていたのでこの写真は翌日朝に撮影したものです。建物の見学をしようと中に入るも既に時間が過ぎており、中の見学は翌日に持ち越す。代わりに建物の周りを散策するなど

 

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サミット記念館裏にあった、いかにも表紙に使われそうな空間

 

二日目

 

雨の音で目が覚める、うーん天気予報の通り。まずは旅館の傘を借りて歩いてサミット記念館の見学に出かける。

 

二階がワンフロア丸々2008年に開催された洞爺湖G8サミットの資料館になっていた。各国元首の等身大?パネルやサミットのテーブルを再現したものやその時の議題などが色々と展示されており、またこれがかなり綺麗に管理されている。国の補助も多少はあるだろうがそれにしても大したものだな、と感心する。そこで探すは勿論あの有珠山高校の部室である。

 

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しかしこの二階には目ぼしい部屋は見つからず、三階を探してみたくも残念ながら立ち入り禁止。もしかして隣の洞爺湖文化センターの方か? と思い潜入を試みるも休館日で何やら忙しく荷物の搬入作業中だったので泣く泣く断念。まあしゃあない。サミット記念館の図書室のおばさんと有珠山噴火について少し立ち話をしてから旅館へ戻る。

 

雨の日の自転車の用意をしながら旅館の人から洞爺湖温泉街についての話を聞く。その人は2000年と1977年の噴火の両方を経験しているらしく、火山灰の後片付けの大変さなどを教えてくれる。「噴火さえ無ければ良い街なんですけどね」とはその人の弁。しかし噴火が無ければこの町がこのように形作られることも無ければ咲-Saki-で登場することも無かったろうな、と思うと何とも言えなくなる。

 

かなり強い雨の中、ポンチョを被り自転車で出発。次の目的地は有珠駅近くのバチェラー夫妻記念教会堂だ。前日にパンフレットで見かけて「有珠駅近く+教会=有珠山高校に所縁があるに違いない!」という単純思考です。途中で有珠善光寺にも立ち寄る、なんでも国の史跡に指定されていて春は桜がたいそう綺麗とのこと。有珠山高校の五人の健やかな成長をお祈りして来ました。

 

そんなこんなで目的地に到着。雨が酷かったのでiPhoneを取り出してナビを確認出来ず、紙のパンフレットと標識を見ながら迷いながらもなんとか辿り着く。緩やかな砂利のスロープの上に教会堂がある感じで、スロープの下には夫妻の養子のバチェラー八重子について説明がある。何となく咲-Saki-シリーズではこの「八重」ってよく見るな…(雨に負けて写真は無し)。残念ながら教会堂の中には入れず。どうやらこの期間は土曜日しか開いていないようだ。記念展示室もあるらしいのでこれから行く人はその辺を確認してから行かれると良いかと。

 

 

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有珠駅にも行ってみる。無人駅で中には蟲の死骸が沢山あった

 

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昼食をとるにも店が無いのでまた伊達紋別駅まで戻ることに。この区間での雨がもはや嵐のレベルで、びしょ濡れになりながらなんとか伊達紋別駅前の飯屋に到着。あったか〜いうどんを食べつつ上述の話をおばあさんから伺うなどする。

 

チャリをまたバラして袋に詰め、電車で苫小牧に向かう。フェリーに乗って北海道に別れを告げる(雨でずぶ濡れだったので出港時の写真は無し)

 

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明朝、太平洋に浮かぶ朝日

 

とまあそんな感じで有珠山高校舞台探訪して参りました。 天気がイマイチだったので再現写真撮影を目的とすれば惜しい点が多々ありましたが、こればっかりはコントロール出来ないからね…。でも土地の匂いや音、空気の質、偶然出会った人との会話など、そうしたデータ化し難いあれこれに沢山触れられたしやっぱり面白かったなあとシンプルに思うのでした。

 

この夏はC86を休んで札幌メロブで夏コミ新刊を買い漁ったり、大洗のガルパン魔境に迷い込み脱出に困難を極めたり、日本海で溺死しかけたり、色々ありましたがそれらはまた別の話。自分の死を確信しつつ足掻いたあの数分間の恐怖と苦しさを忘れることは一生無いでしょうし、なんか両儀式の言っていることが若干理解出来るようになった気がする。イヤ本当に一度潮に流され始めるともうどうしようも無いんですよ。皆さんも海では気をつけましょう。それでは。