あなたには、私を理解して欲しい / 響け!ユーフォニアム2 第9話「ひびけ!ユーフォニアム」感想

(原作小説未読です。アニメ版のみの感想となります)

田中あすか先輩は1期からずっと「響け!ユーフォニアム」の中でも最も好きなキャラクターです。競技に対するストイックさ、周りへの無関心さ、人間性の薄さに親近感を覚えます。そしてその内実が顕わになった2期第9話を中心とする一連のエピソードは作品タイトルを冠するに恥じない素晴らしい出来で、この作品はこれを表現するためにあったのだな、というのがビンビン伝わってきました。あすかは、主人公の久美子にとっては姉、麗奈と並んで、いやそれ以上に重要な人物として描かれていて、久美子とあすかが対等な友情を結べたことがこの作品において最も美しい達成でした。

 

 

 

 

 

もう一度生まれることができたあすか

第9話、久美子が「私はあすか先輩のユーフォニアムが大好き」と伝えた時、数秒の無表情の後、あすかは戸惑うような、空中に放り出されたような不安な顔を見せる。この瞬間が本作品で最も素晴らしい瞬間、あすかと久美子が2人で不可能を可能にした瞬間だと思う。

 

恐らくあすかは、本当の意味では誰かから肯定されることに慣れていない。彼女は自分が一番好きなもの(ユーフォニアム)を一番身近な存在である母親に否定され続けて育ったからだ。だからこそ、自分のユーフォニアムが肯定された時にどうリアクションを取っていいのか分からない。混乱して「もしかしたら私、あの曲を黄前ちゃんに否定して欲しいのかもしれない」と応えてしまう。その瞬間、夕日の差し込みが強くなって画面上部がオレンジに色づく。アニメーションでは意味のないことは描かれない(時間的に描く余裕がない)という仮定に立てば、これは出生の隠喩だと思う。あすかは、もう一度生まれることができた。

 

好きなことを否定されることは、自分が生きていること自体への疑問につながる。だからこそ、ユーフォニアムを続けるためにあらゆる犠牲を払ってきた(漫画本の一冊も持たず〈久美子の「漫画みたいな話ですね」へのリアクションからの推測〉、あの広い屋敷の中でわざわざ狭い部屋に住んで、全国でもトップクラスの学業成績をキープしていたのも、あすか先輩が自分から母親に差し出していた交換条件だったのでは、と勝手に妄想している)。

 

父親から銀色のユーフォニアムと一緒に贈られた曲は、母親が聞いたら恐らく最も激怒したであろう曲で、とても大切なものなのに人に聞かせることが出来ないものだった。合宿の時に誰も聞いていないところに行って一人で演奏していたのも、自分の本心と同じく隠さなければいけないものだと考えていたからだろう。合宿の時の演奏を久美子が聞いていたことをあすかは久美子の口から聞くまでは知らず、そしてそれが既に久美子に受け入れられていたことに戸惑う。自分の存在が肯定されていたことを知る。

 

初めて本音をぶつけた久美子(とあすか)

久美子は、他人に深く関わることが出来ない。吹奏楽を始めるきっかけになった、かつて憧れていた姉との関係が拗れて以来、人間関係に臆病になってしまった。その「化けの皮を剥がす」役割はきっと麗奈が担うんだろうな、と思っていたらあすかが持っていってしまった。いやまあ麗奈とお姉ちゃんがいなかったらあすかにあんなにストレートに感情をぶつける段階まで到達できなかっただろうけど(後述)。

 

10話であすかは「黄前ちゃんみたいに相手に深く踏み込もうとしない人間に、相手が本音を見せてくれてると思う?」と久美子にキッツイお言葉を浴びせるがこれは完全にブーメランで、あすか自身にもそっくりあてはまる。そしてあすかが自分の一番人に晒したくない部分(9話)をぶつけて、久美子もそれに応えて叫んで(9話)泣き喚いて(10話)全力で言いたいことを言って、ようやくこの2人はまともに対話することができる、対等な友達になる。2学年って高校生にとってはもの凄く大きな差で、それは久美子があすかを尋ねて3年生の教室に行った時のキョドりっぷりからも分かる。それでもあんだけはっきりガツンとあすか先輩に言うべきことをぶつけられるんだからホント黄前ちゃんは良いやつやで……。

 

そこまで久美子を支えた麗奈

2期第1話から見直してみると、麗奈の健気さに気づく。常に本気で生きる麗奈に対して、のらりくらりとしている久美子を陰日向になって支え、彼女の良心(正直であろうとする心)を引き出していく。風邪の見舞いの時、姉に激情をぶつけることができたのは麗奈が隣にいたからだと思う。麗奈の前では誠実でありたい、そう思わせる人間なんだろう。久美子の「化けの皮を剥が」したのはあすかだったけど、そこまで辿り着けたのは間違いなく麗奈の功績だった。あすか先輩が卒業したら思う存分久美子とイチャイチャしていただきたい。

 

自分の人生を歩み始めた麻美子(久美子姉)

21歳?でそれまで自分自身を偽っていたことに気付いて、それに自分でケリを付けて新しい道を選ぶってなかなか出来ることではない。お姉ちゃんが自分に正直になれなければ久美子があすかに思ったことをぶちまけることは出来なかった(マッチポンプといえばマッチポンプだけど、自分のケツを自分で拭いたとも言える)。まじ魅力の塊のような人間だし友だちになりたいしこれからガンガン良いことあるよ。

  

理解は出来ないけど、大切な友達

黄前ちゃんは、香織があすかの靴紐を結ぶシーンで二人の絶望的な上下関係のようなものを見出してしまうが、でもこれはあくまで黄前ちゃんの主観の話だと思う。そして、案外あすかは香織のことが大好きのようだ。9話ではあすかの口から香織の名前が何回も何回も出てくる、全く脈絡もなく。香織にあすかを理解することは出来ないけれど、それでもあすかにとって大切な友人ということに変わりは無いのだろう。例えば、卒業してからも一番頻繁に連絡を取り合うのも香織だろうし、なんならお互いの結婚式友人代表スピーチを担当するような仲じゃないかな。これは黄前ちゃんと麗奈の仲にもあてはまる。ただ、お互いを正しく理解できる無二の相手があすかと久美子だったというだけだ。香織先輩と麗奈が不憫だがそこは3年生卒業後にそれぞれ思う存分いちゃいちゃ出来るから諦めてくれ。12話の全国大会演奏後に三年生組3人で喫茶店に行くシーンはなんかジーンとしてしまった。いやあ、女同士って本当にいいもんですね! 

 

そしてノートは久美子に託される 

2期1話冒頭、雪の降る北宇治高校の校門近くで空を見上げて立ち尽くす久美子、その手には古いノートブックが一冊。校門の外を見ると一人分の足跡。立ち止まってこちらに向かって何かを話して、それから立ち去ったかのような。この足跡はあすかのものでしょう。そしてこのノートも、父親からあすかに贈られた、あすかのための曲が書かれたノートだろう。9話の終わりに手紙と一緒に母親からあすかに返された(玄関に母親のものと思われるハイヒールが描かれていたことから。長いこと取り上げられていたんじゃないかな)、あすかにとってはこれ以上大切なものは無いくらいのものだと思う。それを久美子に託してる。。。これに悶えないで居られますかね。あすかにとって久美子の存在がどれほどの救いだったかがよく分かる。一生分の祝福を、あの瞬間に久美子からもらったとあすかも思っているんだろうな。

 

俺は吹奏楽のこととか全く分からないんだけど、父親からあすかに贈られたあの曲は、人を励ます曲だと思う。しんどいことは沢山あると思うが強く生きて欲しい、という思いが溶けているような。見当外れだったら恥ずかしいが、まあ人には誤読する権利がある。

 

なんとか今日中に書き終わって良かった。田中あすかさん、誕生日おめでとう。