【追記あり】『やがて君になる』そのタイトルの指すものは

【最下部に追記あり

 

作品タイトルでウェブ検索して偶然この記事に出くわす人もいるだろうし、ネタバレ回避のため、あるいはもったいぶるために少し無駄話をします。タイトルの意味についての私見は記事の最後に書いたので、そこだけ知りたい人は下の方にある緑の太字テキストを探してください。

 

  

 

 

 

よつばと13巻を買った帰り、ついでに何か面白そうな漫画はないか…ととらのあなを物色していたら見つけた一冊。『やがて君になる』、タイトルの意味が分からん。だけどなんか女×女っぽいし、俺が知らないだけで百合も道を極めれば他人に変身することくらいできるのかもな…、と雑に納得して購入。絵も好きな感じだし。好きな感じというか、どこかで見たことがあるような気がする、どこだっけ…と思い単行本を半分くらい読んだところでググってみたらこの人の同人誌3冊持っていたしマイ本棚に並んでいた。もっと早く気付けよ

 

 

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既に読んでいた

 

 

【以下、各作品の重大なネタバレがあります。】

 

 

『さよならオルタ』感想

 

即売会に行っても同人誌は専ら(8割方)咲-Saki-関連を買うばかりなのだが、時間が空けば会場をてれてれ練り歩き、並外れてぐっとくるものがあればジャンルに関係なく入手している。その数少ないウチの3冊である。こんなこともあるんだな…。

 

特に写真一番左の『さよならオルタ』は印象深かった。自己同一性がゆるい双子(女子)と幼なじみの男の子のお話。素直に読めば話の最後にはルリが死んだのにハリが死んだことにして周りを皆騙している、しかし草太だけは騙せなかった、ということになる。でも久々に読み返してみて、これが逆だったら更に面白いかも、と今では思う。ハリが死んだのをハリが死んだと両親含め周りにはそのまま知らせ、しかし草太にだけは、まるでルリがハリの「フリ」をしているかのように振舞っている。この解釈だとルリの強靭な意志(恐らく世界で一番の理解者である幼なじみに死ぬまで嘘をつくことになる)と、「2人でひとつ」というあの双子だけが共有する特異な黄金律がより際立つ。根拠は手すりから落ちた地面での2人の位置、及びラストページ3コマ目のルリの表情、または26ページの草太からの問いかけにまるで「聞いたことを忘れない内に吐き出そうとしている」かのような少しわざとらしいくらいの答え方、など。しかしこれは勿論全て私の推測/妄想であって、どうやっても確かめようは無い。そこにあるのは2つの閉じた可能性だけだ。かけがえのある存在(オルタナティブ)としてのルリとハリを短編ながら強烈なインパクトで描いたこの作品が大きな賞をとって、電撃大王での『やがて君になる』の連載につながったとのこと。

 

AMW|第21回 電撃大賞 入選作品

 

 

やがて君になる』感想

 

最高の百合かよ(語彙がない)。最高の百合で、そして百合を超えた何かだ。男女関係なく誰にも恋が出来ないことに強烈なコンプレックスを抱える主人公の小糸侑と、同じく誰かを特別に思えない人間だったのにその小糸侑を好きになってしまった七海燈子を軸とした物語。百合を扱ってはいるのだがさらに広く人間関係一般についての表現にもなっている、そうした意味で百合を超えている。言葉や絵の一つ一つが非常に丁寧で、細かいところから作者のこだわりが感じられる。p159ラスト2コマから次のp160の1コマ目までのシーケンスが今巻いちばんのお気に入り、特にp159ラスト1コマ。侑は博愛主義というか、シンプルに人間として良い奴なのだ、それでもこのコマで燈子の髪を弄る仕草には少し他とは違う色気を感じてぐっときた。もちろんこの髪をかきあげる仕草に大した意味は無いでしょうよ、でも本人も気づかないうちの小さな変化がそこにはある。たまんねーなおい!

 

 

やがて君になる』の意味

 

やがて君になる、の「なる」は「成る」ではなく、樹木に果実がなる、などの「生る(なる)」である。

 

ヒント、というか根拠は英文タイトルの “Bloom Into You”。そのまま訳すと「君の中に咲く」。咲くと言えば花かそれに類する何かだろうけれど、主語が明示されていない。そこから原題でももしかして省略されている部分があるのかも、とどこかで感じていたのか思考を蛇行させていたら閃いた、というか夜にこの漫画を読んでから眠り、寝ながらずっとなんとなく考えてて次の日の明け方「なるってもしかして果実がなるのなるで、つまり恋心が侑ちゃんの中に実を結ぶってことなのでは!?!?」と閃きながら目を覚ました(実話)、幸せな寝起きであった。あとは巻末のあとがきで、作者のペンネーム作りのエピソードでもそうした言葉遊びスキーなところを匂わせているしこれもヒントっちゃあヒントかも。

 

それでは「生る」の後ろに本来入るべき、果実に喩えられているものは果たして何か。寝起きの俺は「誰かを特別と思う心(長いので〈恋心〉)」と思ったけれどこれは少し他にも吟味する必要がありそう。「やがて君になる」ってのはどう考えても燈子先輩が発している文章なので、彼女の立場で考えたほうが精度が高そう、な気がする。やがて君(侑)の内に生まれる、何だ、何が生まれるんだ…。「恋心」だけでは弱い気がする。ここは超強気に「やがて君(侑)に生まれる私(燈子)への恋心」くらいで良いのか。さすが燈子先輩すごい自信だ(妄想)。

 

侑が恋に落ちた時その恋は終わる、のか?

 

ではもしも恋心が侑の中に生まれたとすると、代わりに燈子の恋が終わるのではないか。というのも侑の考えでは燈子は、侑が「誰のことも特別に思わない」から好きなのであって、自分を特別に思うようになった侑に恋することはできないのでは? 機械的に考えるとそういう予測も立つけど人生は算数ではないし状況も変わるしそんな単純ではないかな…。ラストページの侑のモノローグを見る限り大まかな流れとしては合ってそうだけど。えろっえろな予告といい次巻もちょーたのしみです。

 

 

【2018年10月16日追記】

 

えー、〈bloom into 〜〉で比喩的に「成熟して〜になる」という意味があるみたいですね。。。

 

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bloomの意味 - goo辞書 英和和英

 

めちゃくちゃ恥ずかしい、3年近くにわたって低能ぶりを全世界に喧伝してしまいました。変化を示す〈into〉なんですね。そういうことならこの文章には特に誤解の余地は無いです。

 

[You will] bloom into you.

 

本来あるべきあなたになる、ということでしょう。残念ながら上で長々と述べた推測は大外れということになります。誤った情報を流してしまい申し訳ない。

 

原作は3巻まで読んでそこで止まっていたらしく、内容もかなり忘れていました。6巻まで一気に買い揃えたのでもう一度最初から読み直そうと思います。

 

 

【2018年10月19日 追記】

 

原作6巻を読み終わりました……。。。死ぬわこんなん。胸が潰れるような思いをしながら読み終えた。偉大、偉大な作品ですこれは。

 

6巻まで読み終えてますます上の「君が君になる」という解釈で間違いなさそうですね、というか劇中で何度かそのものズバリのフレーズすら出てきました。ただ、ここまでの外面的なストーリーラインはどちらかといえば「橙子が橙子になる」ことを主軸に進んでおり、その点は1巻を読んだときには予想外でした、しかもあんなガッツリ心理療法的アプローチまでなされるとは。

 

現在放送されているTVアニメーションもめっちゃいい映像化ですね。OPにおける噎せ返るような植物の表現からは〈bloom〉の原義が連想されて、やっぱり咲くというイメージが重要なんだなーと改めて思い知らされます。タイトルの解釈は外れたけど少し慰めになる(笑)

 

6巻までとアニメEDのペルソナについての描写では以下のテキストを連想してしまいました。併せて読むと面白い、かも。

 

 

和辻哲郎 面とペルソナ

 

 

 

仮面の解釈学

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私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

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