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「試さない」こととルールに対する畏敬の念 / 冨樫義博の世界観

漫画を読み始めたのはたぶん1990年くらいからだったと思う。コロコロコミック、ギャグ王、ガンガン、と読みつなぎ、小学校低学年くらいから週刊少年ジャンプを読むようになった。ジャンプは今でも少しだけ(1、2作品)は読んでいるのでなんだかんだですごい雑誌だと思う。

 

1990年台前半といえばもはや伝説の週刊少年ジャンプ全盛期で、確か週刊雑誌の最高出版部数を記録していたと思う。650万部くらい? ドラゴンボールが連載終了して以来はこれまた劇的な右肩下がりを記録したらしいが。自分が初めて漫画を熱心に読み始めた時期だから余計に印象深いのだとは思うが、確かにあの頃のジャンプは面白い作品ばかりだった。ろくでなしBLUES、ボンボン坂高校演劇部、ダイの大冒険、やまだたいちの奇跡、花の慶次モンモンモン、ターちゃん…。今ググって思い出しながら書いているがちょっと懐かしすぎて変な気分になってくる。勿論ジョジョこち亀もやってたし今でもやってる。あ、ジョジョは移籍したのか。ドラゴンボールSLAM DUNK幽☆遊☆白書が特にお化けクラスの大ヒット漫画として有名。この中でもぶっちぎりで一番好きだったのは『幽☆遊☆白書』だ。現在は『HUNTERXHUNTER』を連載(断載?)している冨樫義博さんの出世作、まあこんな解説は不要なくらいの超有名漫画だろうが。

 

幽☆遊☆白書において描かれ、かつHUNTERXHUNTERでも繰り返し描かれているモチーフで昔から少し不思議だったというか、妙に印象に残ることがあった。それは「信頼関係を試さない」ということ。それも味方との信頼関係を疑わないということではなく(それは当たり前)、味方か敵かがはっきりしない、むしろ敵の可能性が高い相手との信頼をかなり自覚的に「試さない」。それで自らが危険を被ることがあっても。少し具体例を挙げたい。

 

 

幽☆遊☆白書』の仙水編中盤で、水使いの御手洗がそれまでの仲間だった仙水を裏切り、主人公の幽助たちの道案内をかって出る場面。この時点では御手洗が本当に主人公サイドに加担することを決めたかどうかは分からない。仙水たちを裏切った「ふり」をしているだけかもしれない。幽助の仲間は当然怪しがり、御手洗が嘘をついていないか確かめる能力をもった仲間は「嘘をついてないか確かめようか?」と幽助に聞く。しかし幽助はそいつを制して御手洗に告げる。「信じるぜ 行こう」(手元に単行本が無いので細部はうろ覚え)

 

キルアが兄のミルキ(めちゃくちゃ仲が悪い)と情報交換をする場面。ミルキ「その話…本当だろうな」 キルア「”取引き”で嘘つくほど俗呆けしてねーよ」*1

 

パリストンがいわゆるライバル的立場にあるジンについて語った言葉。「ボクはジンさんを敵として信頼してます そのジンさんが息子を託すに「十分だ」と言った仲間ですよ? 信じますよ!! 決まってるじゃないですか!!」*2

  

すぐには思い出せないけれど多分他にも手を替え品を替え同じモチーフを繰り返し語っていると思うんだよね・・・。これだけ繰り返すのだから冨樫さんにとってよほど伝えたいことなんだろうなあと勝手に思っている。

 

で、その伝えたいことは何かと言えば「ゲームのルールを遵守すること」だと思う。ハンター協会会長選挙編でジンが「今回みたいな票取りゲームでは特にだ」(同32巻P10)とか話しているけど別にこの選挙に限ったことではなく、ジンは極端に言えば人生の全てをゲーム的に捉えているんじゃないかな。なぜかって、それが一番楽しいから。

 

そして、ルールを破った人間にはキッツイお仕置きがある。降伏した「フリ」をしていただけのゲンスルーに喉を潰されたゴンが「お前は 一番やっちゃいけないことをした」*3と言ったり。『幽☆遊☆白書』で暗黒武術会の最初の方でも蔵馬を引っ掛けた悪役がサクッと殺されてたな・・・。そして、このルールが守られる限りにおいて、どれだけ気に食わない相手だろうがそいつは一端の存在として認められる。

 

冨樫さんの作品を読んでいるとルールに対する強い畏敬の念を感じるのだけど、それはゲーマーとしての矜持というか、それの遵守が無ければあらゆるものがすげーつまらなくなってしまう、ということなんじゃねーかな。で、ゲームをつまらなくするようなそうした一切こそが悪だ、と。特にHUNTERXHUNTERでは物語の本線でもはっきりと繰り返し違った「ゲーム」が描かれていて、いろんなプレイヤーの生き様が描かれている。*4

 

子供の頃から気になっていたことだったのだがキーボード叩いているうちに思いつきがあって少し腑に落ちた。何でも書きだしてみるものである。思考は頭蓋の中ではなくむしろ指先に宿るのかも知れない。

*1:『HUNTERXHUNTER』8巻P109

*2:同32巻P85

*3:同18巻P83

*4:人生をゲーム的に捉えることの何よりのプラス面はパフォーマンスを最大化できること。サッカーの試合で空からの視点でプレーをするとでも言うか。マイナス面は、人によっては(慣れないと)没入感や達成感が減少すること