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「てるみな」の話

強烈であった。

 

てるみな 1―東京猫耳巡礼記

てるみな 1―東京猫耳巡礼記

 

 

てるみな 2

てるみな 2

 

 

 

 

先週末上野に行った帰りに秋葉原のZINにより購入した2冊。こういうマイナな本はとりあえずZINで買っておけば間違いないだろうという先入観がある、主に特典的な意味合いで。V林田さんのTwitterユーザーネームが【『てるみな』2巻を皆さん買おう】になっているのを見て購入を決意した。決意してからは情報を遮断していたのでどういう作品かを一切知ること無く読み始めることが出来た。僥倖である。V林田さんがコラムを寄せていることすら1巻途中まで知らずに読んでいた。

 

猫耳少女のカワイイのほほん電車旅行記だろう、事前の予想はその程度だった。しかしZINで同作者(Kashmir氏)他作品の帯上あおり文句などを眺めているウチに不穏な気持ちになる(期待が高まる)。突き抜けている。Kashmir氏の作品は初めて読むが、どこかで聞いたことのあるタイトルがちらほらあった。若干お高めの2冊だったがそれほど迷わず購入して自宅で読み始める

 

あらすじ

 

東京近郊に実在する鉄道をモデルにした様々な架空の鉄道に、ある日突然ネコミミが生えてしまった鉄道好きの少女・ミナちゃんが次々と乗りこんでは不思議な体験をする…という一話完結式の冒険譚、あるいは怪奇譚。綿密に書き込まれた偏執的画面、元ネタに心当たりがあったり無かったりするスーパーローカルな看板の表記、やたらとサクサク死んでいく人々。そんなドロドロクラクラする世界観とは不釣り合いに「完璧に」ソフィスティケートされた爽やかなネコミミ少女。このめちゃくちゃなバランスが、鉄道に全く明るく無い読者の私でも作品へと入りやすくしてくれた。

 

(悪)夢の世界の出来事

 

漫画を買ったその日の朝、私は夢を見ていた。千住と押上の辺りを結ぶ架空の鉄道に乗った私は、しかし明らかにどこでもない架空の町で降りて命からがら何かから逃げ惑っていた。あの辺りの雰囲気を100倍物騒かつ意味不明にしたヘンな町だった、夢の中の話だからヘンなのは当たり前だけど。それだけに『てるみな』1巻所収Line.2の「鬼根川温泉 行き」には心をかき乱された。

 

なんでこんな個人的に過ぎることを書いているかというと、この『てるみな』を読むのが終始こうした体験だったからだ。どの話を読んでも「この感じ、知っている」という思いが振り払えずについてくる。ウェブで他の人の感想を読んでみても、やはり皆似たようなことを感じている気がする。良く分かる。

 

どこかで見たことがある、おそらくは夢の中で。つじつまの合わない展開、湿度過多な街並み、決して綺麗に解決しない問題。更には子供のころに感じた自分を取り囲む世界の得体の知れなさとか、そうした懐かしさが詰まっている。パースの狂った知覚、高さ2メートルのブランコが5メートルにも10メートルにも感じられた子供時代、積み重なったフトンの間の暗がりに感じるこことは違う世界、日曜の朝に目覚めた時の静けさと怖さ、などなど。山の向こう、角の向こうは異界だった。そうしたあれこれを波紋のように思い出す、『てるみな』の周波数がそこに合わされているからだろう。

 

その他もろもろ

 

  • 主人公のミナちゃんの台詞のみ通常のフキダシでは無く、別コマに手書きで描かれる→サイレント映画的効果、品格を漂わせる。こんなやり方があったとは…! 
  • 京急」が「鯨急(げいきゅう)」、「浅草」が「淺草」だったりと微妙にもじってある架空の名称と、現実に存在する名称が混在する→現実感を溶かす。 
  • 背景にある看板文字などいちいち芸が細かくて読み飛ばせない。
  • V林田氏による幕間コラムが本編の狂気とぴたり歩調を合わせて各エピソードを裏側から語り直しており、綿密な取材と願望妄想がミックスされた偽史テキストが楽しく、こちらも読み飛ばせない。
  • ミナちゃんの可愛さが読者を現世に繋ぎ止めてくれる。

 

結び

 

というわけで素晴らしい漫画でした。俺は終始爆笑しながら読んでました、小ネタも大ネタも面白すぎて。時代に名を残す作品だと思う。漆原友紀さんの漫画が好きな人なんかに個人的には特にオススメです。

 

 

水域(上) (アフタヌーンKC)

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蟲師 全10巻 完結セット (アフタヌーンKC)

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