【R18】同人誌『実録・鳳翔の陰毛と水爆戦』感想

(書名だけで既に面白いのでエントリータイトルに打ち込んでいて若干の後ろめたさがある)

 

 

6月に大阪で開催された艦これオンリーにて渡辺書房より出版された奇書、『実録・鳳翔の陰毛と水爆戦』の入手に成功した。透明なビニール袋に入った同書を開封する時「危険なものはいつだって透明なビニール袋に入れて遣り取りされる、白い粉然り…」と謎の感慨に浸っていた。タイトルの黒縁黄色ごんぶとゴシックは配色こそ逆転しているもののラーメン二郎のそれを連想させる。黄色と黒、立入禁止(KEEP OUT)に多用される組み合わせで、呼び込みを目的としたデザインには最悪との話を聞いたこともある。本書の内容を鑑みれば正しい選択と言えるだろう。読んでいる間は常に痙攣的笑いに襲われ、呼吸に難儀した。以下読んだ順に感想

 

  

1、渡辺零「実録・鳳翔の陰毛と水爆戦」

表題作。一行目に全てをかける主筆の信条が良く顕われており、「竿役」という単語の脳内定義が刷新された。もう物干し竿をこれまでと同じようには見られないだろう、どうしてくれるんですか。提督の父親の声は当然大塚明夫で再生された。血の呪いに苦しむ提督のへたれっぷりと鳳翔の包容力およびえちぃさが見どころである。官能小説を読んだことが無いので肝心の18禁描写がどの程度その伝統を汲んだものか正確な判断は難しいのだが、そのピリッとした文体は渡辺書房のメインモチーフの銃と血、つまり暴力の薫りを強く感じさせる。そこに今回精液と愛液、または糞尿の臭気が加わり、人の業を描くSFレーベルとして盤石の態勢が整ったと言えるのでは無いだろうか。

 

2、一号「undercover suicides」

お前の主食は何だ? 何を食えばこんなテキストが出てくる? きっとFRP(繊維強化プラスチック)あたりを常食しているのだろう。そんな与太が頭を掠めるほど、一号氏の文章表現は一つ一つがキラ星の如く輝いていた。「極端に」「躍動的に」これらは決して珍しい単語では無い、むしろ見慣れたものだ。しかし本作1ページ目で登場するそれらは常識をはるかに超えた在り方でイキイキとした概念を届けてくれる。驚きはそこで終わらない。掌編ながら3つの場面に分かれる本作では(第2部は更に前後に分かれる)目まぐるしく状況が流転し、夢想と現実、ヘテロとゲイ、快楽と絶望、清浄と汚濁(うんこ)、そして死と「胎内回帰への渇望」が渾然一体となり謎の感動を読み手に叩きつける。次作が非常に楽しみである。

 

3、大戸又「間宮の定食」

筒井康隆『薬菜飯店』のパロディという本作では、間宮食堂での濃厚かつ奇天烈な食事風景が活写される。グルメ作品ならではの、五感のうちでもより原始的な感覚に語りかけるメニューの描写、それを味わう提督から漏れる言葉の瑞々しさも見事。読んでてお腹が空きました(実話)。メニューは当然本書全体のメイン・テーマに沿ったインパクト抜群のラインナップなのでここで公開することは控えたい。その後の情交の描写も前半の食事描写と自然に連なっており、一行目の宣言が達成されていることに淡い感動を覚える。4作のうちで最もちんちんに悪かった作品である。

 

4、伍藤潤「shit thirsty friday」

何かのパロディやオマージュだったとしても良く知らないのだが、この特徴的な文体(表記法?)がもたらす効果には馬鹿にならないものがあると思う。標準的な日本語ならばそれぞれに適した接続表現でつながれるべき単語がここでは乱暴に切断され、スラッシュやダーシ、あるいは等号で組み直される。接続の大まかな方向性は理解できるものの最終的なつなぎ方の判断は読者に委ねられており、読み進めるにつれ独自の浮遊感を得る。体言止めすら生温い大胆な字数節約を可能にするこの表記法は、1字分でも早く、あるいは多く核心を語りたいという著者の欲望が見えるようで興味深い。突如挿入される極太ミンチョ体、多用されるルビ、こだわりを感じさせる排泄音、脈絡なく綺麗に揃う行末などと合わせ、紙面遊びがふんだんに盛り込まれており目を飽きさせない。

 食糞をストレートに扱った本作は下述の「艦娘うんこ爆弾」との接続を最も強く感じさせる。艦隊で一二を争う大食女の大和、赤城のシット・イーティング対決、それを脇で支える加賀と武蔵の誇り、てんたつの出落ち感など短いお話ながらてんこ盛りの内容である(糞だけに)。龍田の滝登りを脳内でイメージしないようにするのが大変だった。ちなみに今日の夕食は偶然にもカレーで、伍藤氏の短編はそれを食しながら読了したこともここに報告したい。

 

【結び】 

 

本書は渡辺書房によって2014年末に公開されたコピー誌「艦娘うんこ爆弾」の流れを組んでいる。以下リンクにて全文公開されているので未読の方には一読を勧めたい。

 

www.dropbox.com

 

「バブみ」という言葉が少し前に爆発的に流行し、今や流行から常識に変化した感がある。そもそも同じ概念は昔からある、「男はみんなマザコン」というアレだ。 本文でも少し述べたが、「胎内回帰の渇望」、これが本書所収の4作に通底するグランド・テーマである。換言すれば、「自分のうんちを受け入れて欲しい」という欲望だ。大人になれば誰もが自分のうんちは自分で処理しなければいけない。しかし、潜在的には全ての人間には「誰かに自分のうんちを受け入れてもらいたい」という欲望があると言っても過言では無いだろう(大きな表現)。無論ここでのうんちとはいい大人にもなってもなお抱えてしまう妄想、空想の類を指す。本書あとがきでの主筆の叫び(本書中最大の極太誤死苦体での尾籠文)は――逆説的ながら――その本能を超克する決意、気高き宣言と呼べるだろう。人間の業と真っ向から切り結ぶ渡辺書房の活動には今後も注目したい。

 

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脳のメモリが足りず30ページ以上の物語を記憶することができないので、こうした掌編集は有難い。咲-Saki-二次創作『委託審霊官・戒能良子シリーズ』の続編もとても楽しみにしています。